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広島高等裁判所 昭和24年(う)660号 判決

被告人

小島彪

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人本間大吉の控訴趣意について。

刑事訴訟法第三百十二條第一項においては、公訴事実の同一性を害しない限度においては、訴因及び罰條の変更が認められているのである。そして公訴に係る事実が同一であるためには具体的事実として枝葉の点まで同一である必要はなく基本的事実関係即ち重要な事実関係が同一であれば、その同一性は害せられないものと解すべきである。(中略)而して原裁判所において、檢察官が窃盜を訴因として起訴した事実を橫領と変更したが、その基本的事実関係において変更はないから、この訴因の変更は適法である。

(弁護人本間大吉の控訴趣意第一点)

原判決は訴訟手続に於て判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違法が存する即ち第三回公判に於て檢事は起訴状記載の公訴事実中第一の公訴事実の(二)に「同日頃同町八区一二八〇番地図師照義方に於て同人所有の中古自轉車一台を窃取し」とあるを「同日頃同町八区一二八〇番地図師照義所有の中古自轉車一台を借り受け保管中其の頃岩國市岩國駅前マーケツトに於て直に賣却橫領し」と訂正し訴因を橫領、刑法第二百五十二條第一項と訂正せられたき旨請求し判事は之を許可して居るのであるが刑事訴訟法第三百十二條によれば訴因罰條の変更は公訴事実の同一性を害しない限度に於てのみ之を許容して居るのであるから公訴事実の同一性を害する前記の変更は許されないと謂はなければならない、蓋し窃盜は他人の占有して居る物を占有者の意思とは無関係に不法に自己の占有に移し盜取するものであるに反し橫領は他人の占有して居るものを其の意思に基づき任意交付を受け保管中擅に之を不正に領得するものであるから両者の間には截然たる差異があり同一性は認められない然らば原判決は公訴事実の同一性を害して訴因罰條の変更を許した違法あり且この違法は起訴せられた窃盜の事実に付無罪の判決をなすべきを有罪と認定したのであるから判決に影響を及ぼすことが明らかである。

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